第12回 『メンタリングが目指すもの』


【職場に求めてられているトレンド】

 

組織の課題解決や目標達成といった「組織の論理に構成員が従い活動する」ということが、以前の職場のあり方であったと考えます。

数十年前までは、日本国内では、企業が社員の生活を保障してくれました。それと引き換えに、社員は組織の論理に従っていたのです。

 

しかし、1990年代になりバブル経済がはじけ、企業は社員の生活を何十年にもわたり、保証することはできなくなりました。いわゆる終身雇用制の崩壊です。また、社会環境も、以前に比べ、様々なモノが入手しやすくなり、国の社会保障も充実し、企業ありきではなくても、生活は送りやすくなりました。個人が、企業に縛られず、自分の力でキャリアを描く余裕もできてきました。そうなると、社員は、組織に従属する位置から、「対等」となる関係に移行していきます。

 

以下に、組織と社員が対等の関係に移行しいる人事管理の考え方の例を紹介します。

 

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組織と社員が対等の関係を示す人事的考え方

① エンゲージメント

会社の経営理念と各社員のキャリアに対する考え方を共鳴させる考え方

 

ティール組織

ピラミッド組織のような上意下達ではなく、一人ひとりが自分の能力をフルに発揮し、

組織の目的をメンバー全員で考え続けていく組織のあり方

 

③ 1on1(ワンオンワン)

 

リーダーが複数のメンバーに対してミーティングを持つよりは、

各メンバーとの対話の機会を持つことに重きを置くマネジメントのやり方

 

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上記のように、企業は、「組織と個人が対等」になっていく傾向にあります。

もちろん、完全に対等というわけではないでしょうが、今の企業の採用状況を見ると、雇用者側が有利の状況にあります。

 

採用しても、何か自分にとって不都合なことがあれば、以前より簡単に離職してしまいます。雇用者側が組織より対等以上という場面もあるのです。

 

 

【若手社員の離職する本当の理由】

 

 

現在、メンター制度を導入する目的で圧倒的に多いものは、社員の早期離職防止です。退職に至りかねない悩みや不安のある社員をメンターが受け止め、効果的なアドバイスを送ることができれば、離職を防げるのではないかという考えです。

それは、確かに、理にかなった考え方と言えます。

 

これまで、多くの組織に対し、メンター制度導入・運営の相談を受けてきましたが、特に若手社員の離職理由の多くは、「仕事が合わない」とか「キャリアが描けない」ということがあげられているようです。しかし、もう少し事情を調べてみると、違う背景が浮かび上がってきます。離職する理由を敢えて言えば、「職場がつまらないから」ということだと感じています。「職場がつまらない」の要因は、「人間関係が希薄」「仕事から喜びを感じない」「楽しいコミュニケーションがない」ということだと思います。

 

私たちは、職場を「事業を推進し利益を上げるところ」ということを、当然のこととして受け容れているのではないでしょうか。しかし、職場においても、人と人が集まれば、雑談をしたり、遊びに出かけたりすることは、ごく自然なことだと思います。しかし、組織からは、「利益を上げるために、ある役割を担うだけの自分」「より生産性を上げることに専念すべき自分」を求められ、本人もそれを当たり前のことと思い込んでいるのではないでしょうか。

 

それに加え、ハラスメントやプライバシー保護の風潮もあり、職場で仕事以外のことを話題にすることはタブー視されているように感じます。人と人との自然なコミュニケーションはしてはいけないという不文律が存在し、自らもそのように行動を規制し、職場がつまらなくなり、去っていく若手社員が多いのだと感じています。

 

【つながりを楽しむ】

 

日本メンター協会では、メンタリングを表すメッセージとして、「つながりを楽しむ」というものがあります。「つながり」とは、人と人の関係であり、象徴的に言えば、「絆」ということです。ソーシャルネットワーク等でつながることもその1種ではありますが、絆の多くは、一緒に様々な体験を通して育まれるものです。また、相手の生活や仕事のことなどを、共感を持って、自分に置き換えながら聴くことでも絆は生まれます。

 

 

「つながりを楽しむ」とは、メンターとメンティーが職場を超えた “よもやま話”を語り合い、聴き合うことで、「なんかよかったなぁ!」と感じ、楽しむことです。それがメンタリングの基本だと考えています。

 

メンター制度においては、メンタリングを「メンターとメンティーの対話」と捉えられていますが、本来は、メンターがメンティーにする支援全てを指していました。2人で、会合に出席したり、セミナーで勉強したりすることも、メンタリングと捉えていました。ですから、メンターとメンティーが、対話以外でも、仲間として、食事を共にしたり、旅行に行ったりすることも、大きく捉えればメンタリングの一部と言ってもよいのです。

 

  

 

【社会と共に生きていく時代】

日本メンター協会では、メンター制度を「一人ひとりが輝ける職場づくり」を最終目的として取り組んでいます。1対1の対話も生かしながら、メンタリング勉強会、コミュニケーションワークショップも制度に取り組み、グループ単位で、チーム単位で、自由で楽しいコミュニケーションができるやり方を積極的に取り入れています。

 

 

 “個の時代”と言われて久しいですが、それは「家や国家、組織などの集団の論理に縛られずに生きていく」という意味合いだったと思いますが、今は、個としての生き方に比重を置き過ぎて、息苦しさを感じている人が多いように思います。確かに、「集団のために自分が犠牲になる」ということを受容できる人は少ないと思いますが、「社会や周囲の人に喜んでもらうことが、自分の喜びになる」ような生き方に、共感する人は多くなっているように感じます。以前は、そのように感じながら、日々、職場で働いていた人は少なくなかったと思います。

 

これからは、組織と個人が対等だけではなく、あらゆる人と人が対等な関係で、相手を尊重し、受け容れ合い、お互いの体験を共有できるような「つながりを楽しむ」ことが求められていると考えます。


                               ※人材開発情報誌「企業と人材」2020年3月号に掲載されました。