第11回 『メンター制度における管理職の役割』


【管理職はメンター制度のカギを握っている】

 

メンター制度において、メンターでも、メンティーでもその社員をマネジメントする立場のリーダー・管理職の役割は大変重要です。メンター制度が効果的に行くか否かは、当該者(メンター・メンティー)の上司に大きく関わっていると言っても過言ではありません。というのも、リーダー・管理職のメンタリングの理解が、部下である当該者のメンタリングの実践に大きく影響するからです。

メンター制度におけるメンタリング時間は、通常、就業時間内に行われるのが普通です。とすれば、通常業務を中断してメンタリングに向かうことになります。職場においてメンタリングへの理解がなければ、「仕事を中断して何をしに行くのか?」「何の話をしているのか?」と不審に思う人もいるでしょう。そのような雰囲気のなかでは、当該者たちは、メンタリングを安心して実施できないでしょうし、続けることも難しくなってしまいます。

 

 

 

 

【まずは、管理職がメンタリングを正しく理解すること】

 

メンターもしくはメンティーをマネジメントする立場の管理職のメンター制度における役割は、メンタリング活動を見守り、円滑に効果的にメンタリングができるようマネジメントすることです。そのためには、メンタリングの理解が必要です。メンタリングを端的に言うと、「メンター・メンティーの成長のために、様々なテーマを、心を開いて話し合うこと」です。

ここでの成長で主なものは以下の2つが柱となります。

①「コミュニケーション能力の向上」~良い人間関係をつくれるコミュニケーション

②「キャリア意識の育成」~常に自分の進むべき道を見つけようと心掛けること

メンタリングに対する悪いイメージとしては、「仕事をしないで雑談をしているだけではないか」「上司や組織の愚痴を言って雰囲気を悪くしている」などでしょう。日本メンター協会では、“雑談”や“愚痴”は必ずしもマイナスとは捉えていません。「雑談は幅の広いコミュニケーションを導く」「愚痴を聴いてもらうだけで心が軽くなる」など、いい影響があるのです。そのような場から幅の広い、懐の深い話につながり、心を開いたコミュニケーションができるスキルが向上します。また、様々な雑多な話から、自部の進むべき道=キャリアが見えてくるのです。

メンタリングの理解のためには、管理職自身がそれを体験することが一番です。人事が制定しているメンター制度のメンターとして参加することをお勧めしています。その機会が無ければ、自主的に社内でサークル活動としてやってみることです。そのような組織も沢山あります。また、職場外の人たちと行ってもいいでしょうし、一番身近な家族と行ってもいいのです。そうして、リーダー・管理職の立場の方がメンタリングを体験し、その素晴らしさを実感することが大切です。

 

【組織やチームにおけるメンタリングの好影響】

 

メンタリングが、チームや組織に与える影響とはどのようなものでしょうか。まずは、上記で述べたような当該者の成長です。加えて、チーム全体に対する効用もあります。メンタリングは、公私の別なく、自己開示して、伝え合い聴き合う場です。当該者でもあるチームのメンバーが、そのようなコミュニケーション・スキルができるようになると、それをチームでも実践するようになります。そうしていくうちに、徐々に、チーム全体のコミュニケーションが自由闊達になります。そうして、仕事の情報共有もより密になり、何よりも、職場が明るく楽しい場になっていきます。マネジメントする立場としては、大変助かることと思います。管理職として、メンタリングは、当該者にもチーム全体にも、良い影響を与えるものとして、その機会・時間を大切にしてあげてください。

 

  

 

【現在の組織に対する考え方を改める】

今は、組織に対する考え方を転換する時期に来ていると考えます。組織はチーの課題や目標を目当てに、全メンバーがそれに向かって、効率よく進めていく場であったと思います。そこには、メンバー同士の一体感や、各メンバーの高揚感があり、それが働きがいになりました。また、そこから人間関係が濃密になり、それが生きがいや生きる力にもなりました。ですから、当時のキャリア開発は、その組織の中だけで完結していたのです。

しかし、今は違います。まず、組織は、以前のように、社員の人生を保証はしてくれません。その時代は、組織が、社員の人生や生活をリードしてくれました。今は、各人一人ひとりが、人生や生活を形づくり、その意義を見出していく必要があります。就職する際も、以前のような“就社”ではなく、今では、“就職”という意識の方が強いでしょう。組織での仕事の進め方も、メンバー同士の強いつながりというよりは、より効率的にするために、各人の仕事の役割を明確に区分にし、一人ひとりが独立して仕事を進める傾向にあります。

 

しかし、そのような組織の中でも、人と人が集まれば、人間関係=“人と人のつながり”は生まれるのが自然です。しかし、今の日本国内の組織では、課題達成のためのチームメンバーとしての自分しか認識されていないように感じられます。それでは、自分に何らかの益がなければ、その組織に長く勤めることはないでしょう。場合によっては、自分の存在の不確かさから、メンタル不調に陥ってしまうかもしれません。仕事の関係と人間関係の狭間を埋めるものがメンタリングなのかもしれません。そのような時代であっても、人間同士のつながりを感じられるような場を組織に意識的につくることが、今の管理職に求められているのではないでしょうか。


以前と現在の組織の違い

 

【以前の組織】           【現在の組織】

(1) 就社の意識で入社する           → 就職の意識で入社する

(2) 組織の一体感があった     → 個人の独立意識が強い

(3) メンバー間の人間関係が濃密  → 仕事を通しての関係意識が強い

(4) 組織の中でキャリアを形成する → 各人がキャリアを形成する

 

 

                               ※人材開発情報誌「企業と人材」2020年2月号に掲載されました。