第10回 「職場のコミュニケーション活性化」

メンター制度の導入の究極の目的が、「職場のコミュニケーションの活性化」といえるかも知れません。というのは、社員の早期退職の問題も、メンタルヘルスの問題も、職場における日常のコミュニケーションの不足が大きな原因である場合が多いからです。また、職場のコミュニケーションを活性化することで、よいリーダーが育ち、女性社員の活躍を後押しすることにもつながるからです。

 


【コミュニケーションの3つの側面】

 

 

職場のコミュニケーションを活性化するには、メンバーのコミュニケーションの質を向上させる必要があります。この質について、当協会では、図1のように、3つの側面から伝えています。「論理」「共感」「人間関係」の3つの側面です。

 

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         コミュニケーションの質・3つの側面(図1)

 

         論理的側面~「わかりやすく伝える、正確にきく」

     ・自分の話を、整理して、分かりやすく論理的に伝える

     ・相手の話を、理解できるように確認・整理しながら、正確にきく

 

 

          共感的側面~「気持ちを通じ合わせる」

     ・自分の気持ちを、声色・ジェスチャーなどで表現する

     ・相手の気持ちを、感じ取りながら聴く

 

 

          人間関係的側面~「周囲との関係を良好にする」

     ・自分の考えや気持ちを、オープンにする態度・姿勢・考え

     ・相手のことに興味や関心を持ち、相手を受け容れる態度

 

 

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「論理的側面」は、「わかりやすく伝える、正確にきく」というような論理的な質です。

具体的には、自分の話を「伝えたいことを整理して、わかりやすく論理的に伝える」、相手の話を「理解できるように確認・整理しながら、正確にきく」ことです。

ビジネスコミュニケーションとかロジカルコミュニケーションと言われるものです。

 

コミュニケーションで伝え合うものに、「情報」と「感情」があります。論理的な側面のコミュニケーションは、情報の交換ですが、「共感」は感情面になります。「気持ちを通じ合うす」ことも大切なコミュニケーションの一つです。

メンタリングにおいては、こちらの方が論理的なコミュニケーションよりも大切です。メンタリングの教育で、共感的理解を向上させる「傾聴トレーニング」を行うのもそのためです。

 

しかし、最近では、その根底にある「人間関係」を良くするためのコミュニケーションの質を高めることがより必要と考えます。具体的には、「自分の考えや気持ちをオープンにすること」、いわゆる「自己開示」です。もう一つは、他の人に「関心・興味を持つこと」です。その2つが人間関係を良い方向に導き、「コミュニケーションのとりやすい雰囲気」をつくります。いくら論理的側面や共感的側面の質を上げても、「自分のことは話さない」「相手に興味がない」では、質の高いコミュニケーションは始まりません。

 

特に、最近では、後者の「他の人に対する関心・興味」に課題があるように感じます。今は、インターネットを中心に多くの情報が溢れています。その大量で様々な情報の中では、どうしても、自分と同じ志向の情報に目が向いてしまい、相対的に、自分に関係がないと思われる他人に対しての関心が薄くなってきているのかも知れません。

 

 

【コミュニケーション活性化が仕事の生産性を高める】

メンタリングは、関係性を深めたり、共感的理解力を高めたりするには効果があるが、
「仕事の生産性を上げるには効果的なのだろうか?」と疑問を持つ向きもあると思います。

仕事の生産性の低下の原因として、「情報共有ができてない」との声を聞きますが、
これは、「伝わるべき情報が伝わっていない」もしく「理解できない」ということでしょう。
しかし、さらによい仕事をするためには、基本的な情報の共有だけではなく、
「仕事のコツ」や「人とのつき合い方」など、いわば非公式的な情報の共有が、
より多くなされているか否かで、その職場の仕事の生産性が大きく変わってきます。

このような情報を共有することは、人間関係的側面のコミュニケーションの質が低いと、
なかなかされにくいものです。

当協会でメンター制度のコンサルテーションを長年行っている名古屋のIT企業では、
導入後3年目に入り、メンターの中にメンティー経験者が増えてきました。
メンターとして、またメンティーとして、メンタリングの経験を経ていくうちに、
組織の雰囲気が徐々に変化してきました。

コミュニケーションの質が格段に上がってきたのです。

具体的には、、「メンタリングをより深掘りしながら進めていきたい」「メンターの自己開示力を見習いたい」「機械的ではなく、よく考えながらコミュニケーションを取っていきたい」などの声が上がるようになってきました。


メンタリングを通じて、明らかにコミュニケーションの質が上がり、職場でも、質の高いコミュニケーションを主体的に取る姿勢が出てきました。

メンタリングは、ある意味、人間関係的側面において、質の高いコミュニケーションの場とも言えます
そこで、その質を高める経験をしておくことは、仕事においても、大変重要と考えます。

【メンタルヘルス対策としてのメンター制度】

厚生労働省が発表している「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
のなかに、「職業性ストレス簡易調査票」がありますが、
その質問項目に、職場の周囲に、「どれだけ相談できる人がいるか」の質問項目があります。

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【職業性ストレス簡易調査票(質問項目一部)】

●次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?
・上司 ・職場の同僚 ・配偶者・家族・友人等

●あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?
・上司 ・職場の同僚

●あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?
・上司 ・職場の同僚

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質問項目を見れば分かるとおり、「公私の別なく気軽に相談できる人」言わば、
「メンター的な人が周囲にいるかどうかが、ストレス対策に有効なことを示しています。
また、同調査票の仕事面の質問項目に、「私の職場の雰囲気は友好的であるか?」というものがあります。

メンター的存在と同様、職場での友好的なコミュニケーションのできる雰囲気づくりも、
メンタルヘルス対策として大切であることが伺えます。

                               ※人材開発情報誌「企業と人材」2020年1月号に掲載されました。