第6回「モニタリング(調査・分析)」


【モニタリングとは】

 

人事制度全てにおいて、それをより良いものとするためには、その調査・分析は必要なことです。メンター制度では、それを“モニタリング”と呼んでいます。メンター制度におけるメンタリングの本質的な目的は、「自身が成長するための気づきや課題を得る」という漠然としたものです。ですから、メンター制度は、効果的に運用されているかが判然としにくい制度の一つといえます。ですから、その調査や分析はやりにくいと考えられています。

 

 

当協会では、メンタリングを3回実施した後にじっしする行うのが理想的としています。早めにモニタリングしておけば、深刻な事態になる前に対応が可能だからです。

【モニタリングで調査したい項目】

 

メンター制度で、まず、確認したいことは、下表の「モニタリング項目その1」の通りです。1.着実にメンタリングが実施されているか」については、しっかり押さえておく必要があります。できましたら、「実施確認」については、モニタリングでなく、定期的な報告で対応したいところです。「対話のテーマ」については、その内容を確認するというよりは、“単なる業務指導”になってないかの確認になります。

2.自由な対話ができているか」は、メンタリングの根幹部分です。ペアの信頼関係の深さを知ることでもあります。その尺度は当人の心のなかにありますので、客観評価は難しいですが、お互いが「自由な対話の方向を目指しているか」の確認は必要です。

 

この2点を押さえることが基本ですが、さらに効果を測定したいのであれば、下表の「モニタリング項目その2」を確認するといいでしょう。この項目について確認できる状況ということは、かなりメンタリングの文化が進んでいると考えられます。

制度発足から1~2年の組織では、以下の「モニタリング項目その1」が中心になると思います。

 

<モニタリング項目 その1>

 

1.着実にメンタリングが実施されているか

 

《設問例》

・実施した日時と所要時間を確認します。

・主にどのようなテーマで、対話しましたか?

□仕事のこと □職場のこと  □キャリア

□人生設計  □プライベート □その他

 

2.自由な対話ができているか。

 

《設問例》

・様々なテーマで、対話できていますか?

・思ったこと感じたことを、話してますか?

 

<モニタリング項目 その2>

 

1.モチベーション向上へ寄与しているか

 

《設問例》

・不安や不満は、低減されているか?

・仕事や生活全般で、やる気が高まっているか?

 

2.成長実感を持つことができているか

 

《設問例》

・自分の長所や課題が、明確になってきましたか?

・自分の進むべき道について、考える時間になっていますか?

 

【モニタリングの方法】

 

代表的なものは、「記入用紙によるアンケート」と「聞き取り(ヒアリング)」の2つです。アンケートは実施しやすいのが、一番のメリットです。ただ、アンケートは、率直な回答が得られることもありますが、逆に当たり障りないことを記入する回答者も出てきます。ですから、アンケート結果だけで判断すると、偏った分析になってしまうおそれがあります。

 

ヒアリングは時間がかかりますが、直接、話が聴けますので状況や様子がよくわかり効果的です。ヒアリングの基本は、個別に聴くことです。可能であれば、聴き手は2人で行うことを勧めています。1人でのヒアリングでは、1人の主観での判断になってしまうおそれがあるからです。全対象者の実施が難しい場合は、何人か選んでの実施でも構いませんので、必ず、実施するように指導しています。

 

組織として、メンター制度の目的を「社員の定着促進」や「女性の管理職登用」としている場合は、アンケートやヒアリングにおいて、組織におけるキャリアの考えや思いなどをモニタリング項目に加えると良いでしょう。また、社員定着率や女性管理職の登用数などの結果を確認することも必要なことです。ただ、その結果が思わしくない場合でも、メンターに責任を負わせてはいけません。それは、メンタリングの『教育の問題』であり、『制度の運営の課題』と捉えるべきです。

【モニタリング結果の対応】

 

メンタリングの「実施状況」や「自由な対話」が思わしくないとの結果が出た場合は、「当該者の教育」「組織のメンタリングの理解」の2点を見直してください。どちらも「単に仕事を教えること」「雑談をしても意味がない」など、メンタリングに対して間違った理解をしていることなどが、思わしくない結果につながっています。当該者やその上司に対して、個別説明や勉強会の実施などを地道に行い軌道修正していくことが必要です。

 

また、あらかじめ「フォロー研修」を計画しておくことを推奨しています。また、フォロー研修でメンタリングの理解の軌道修正を行います。また、ペアやメンタリングの状況がよくわかり、モニタリングの役割も兼ねられます。

メンタリング自体がハラスメントの温床になっていたり、メンタル不調の原因になったりしていると感じた時は、メンタリングの中断やメンターの交代を検討します。その判断に対しては、当該者によく理解してもらうとともに、その結果については、責任を負わせないことも『基本原則』です。

 

モニタリングをしていくと、組織の問題や課題が浮き彫りになってきます。メンタリングで自由な対話がなされていると、よりリアルに問題や課題を感じることができるのです。マネジメントや人材開発、事業活動など様々な観点から、考えさせられることが多く出てきます。このことは、『メンター制度の大きなメリット』といえるものです。

                               ※人材開発情報誌「企業と人材」2019年9月号に掲載されました。