第3回「メンター制度の導入」


【メンター制度とは】

 

メンター制度とは、「メンタリングを効果的に実施するための仕組み」です。

メンター制度は、「メンターとメンティーを選定する」「期間とメンタリングの回数を決める」の2点が骨組みになります。メンター制度の構成要素は、下記の通りですが、まず、最初に考えなければならないのは、制度の目的です。まずは、「何のためにメンター制度を導入するのか」目的を設定することです。

 

               【メンター制度の構成要素】

 

              ■目的・・何のために導入するのか

              ■対象・・目的に合わせて選定するのか

              ■期間・・半年から一年程度が多い

              ■回数・・月に1回程度が基準

 

【メンター制度の目的を考える】

下記にメンター制度の主な目的を掲げました。多くの場合、複数の目標を設定しています。

少ない方が、制度を構築するには、決め事が明確になり、運営しやすいかもしれません。ただ、メンタリングの性格が、「自由でおおらかなもの」なので、組織の目的では意図していない様々な効果が表れるのが普通です。

 

ここで、見落としてはいけない、大切なことがあります。それは、メンター制度の目的は、制度構築する側が意識することであって、「メンタリングのペアにその目的を意識させてはいけない。」ということです。メンタリングは自由に何でも話せる場でなければなりません。例えば、メンターに対し、「メンタリングの目的は、メンティーを退職させないことだ」と伝えた場合、メンターのプレッシャーは大きく自由な話はできません。そのようなメンタリングでは、メンティーもメンターに対し、本当のことは伝えないでしょう。

当人たちにとっての目的は「共に成長すること」、これ以外にはありません。

 

 

                  【メンター制度の目的】

 

              ・社員定着促進、離職防止

              ・リーダー、マネージャーの育成

              ・女性社員、シニア社員の活躍促進

              ・ビジネススキルや職務能力の向上

              ・経営理念の浸透や、技術、スキルの伝承

              ・キャリア形成支援

              ・社内コミュニケーションの活性化

              ・メンタルヘルス対策

 

 

 

【目的に沿い、メンターとメンティーを選定する】

 

目的を精査すると、メンティーやメンターはどのような社員を候補にすればよいかが、必然的に決まってきます。現在では、「新入社員の定着促進」を目的の第一にする組織が、7割は占めている実感があります。ここでは、その目的を例に出して解説を進めていきます。この目的の場合、メンティーは、新入社員になります。メンターは、新入社員の定着につながるような資質のある社員となるわけです。メンター1人に対しメンティー1人が原則ですが、メンターが複数のメンティーを担当するケースも見受けられます。その場合、主業務の負担にならないよう、3人までとするよう指導しています。

 

さて、選定の方法ですが、応募、推薦、指名と考えられます。どれがいいのかは、組織の風土、人員の制約、メンター制度の目的で変わってきます。本来、応募が当人のモチベーションを考慮すれば、それがよい方法なのですが、応募だけでは人員が確保できず、制度が成立できない状況も考えられます。指名・推薦を軸にして、応募も兼用するといった形を勧めています。

 

制度導入で一番の課題と思われる「メンターにふさわしい要件」ですが、「新入社員の定着促進」を例にとりますと、「メンティーの話しやすい年齢の近い先輩」がいいのか、「キャリアを支援できるベテラン」がいいのか、正解はありません。組織の現状および課題に照らして、どの要件が相応しいのかをよく検討する以外に方法はありません。

 

【期間と回数の傾向】

 

メンター制度の期間と回数ですが、制度の期間は、メンティーの年齢が若いほど長い傾向にあります。

1年を基準に、半年から1年半という例が多いです。回数は、月1回が基準となります。新卒新入社員がメンティーの場合は、当初の2~3ヵ月は、月2回ということもあります。メンティーが中堅以上になれば、期間は、半年くらいが多く、回数は、2ヶ月に1度ほどです。もちろん、制度の目的や組織の状況により変わってきます。

 

メンタリングの所用時間は、60分程度が一般的です。ペアの信頼関係が深まってくると、自然に90分以上は行っているようです。逆に30分未満では、まだ効果的なメンタリングになっていないと考えてもいいでしょう。

 

【メンターとメンティーのマッチング(組み合わせ)】

 

よく、説明会では、マッチングの質問が頻出します。相性が気になるのかと思いますが、その対策として、「メンティーに要望をきく」というのがあります。しかし、相応の社員がいない場合もあります。要望通りとしても、本人のイメージとは違う場合もあるでしょう。それも最終的な解決にはなり得ません。

 

また、「わが社にはメンターに相応しい社員がいません。」という訴えをよく聞きます。この場合は、「メンターをどう捉えているのか」を再考すべきです。上記のような話が出る前提として、メンターを、当初から「キャリアも実績」もあり、「傾聴力」のある社員でなければならないと考えている節があります。そのようなメンターを探すとなると難しいかもしれません。しかし、メンティーにとって、目指す姿やキャリアは人それぞれですし、また、何の話が参考となるかもわからないのです。メンターとしての態度やスキル、キャリアの考え方については、教育などで十分に補えるものです。研修などのサポートで、自信がないという人でも、立派なメンターになることができます。(研修については、今後の回で解説します。)

 

【信頼関係が深まるような仕組みが大切】

 

メンター制度構築での一番の留意点は、本来のメンタリングと違って、メンターとメンティーの間に信頼関係が殆どない状況から始まることが多いことです。ですから、2人の信頼関係を深める仕組みづくりがポイントです。「相性の問題」も信頼関係をいかにつくっていくかで解消されます。次回からは、それを見据えた制度運営を解説します。

                               ※人材開発情報誌「企業と人材」2019年6月号に掲載されました。